17年11月12日記 『サウジと米国のシェールオイル戦略』

最近の記事の抜粋です。
————————-
11月5日、
サウジアラビア南西部アシル州の副知事だったマンスール・ビン・ムクリン王子は、
イエメンの国境付近で搭乗していたヘリコプターの墜落により死亡した
というニュースがありました。
王子は、汚職摘発を名目に王族や閣僚ら多数を拘束した
サルマン皇太子の反対派のため、
不正行為への追及を逃れようと国外に向かっていた際、
ヘリが墜落したとの臆測が広がっています。
————————-
11月4日、
内戦が続くイエメンの反政府武装組織「フーシ」が掌握する国防省は、
同国の空軍がサウジアラビアの首都リヤドの空港に弾道ミサイルを発射した
と発表しました。
これに対し、サウジ国防相は国営テレビを通し、
リヤド付近の上空でミサイルを迎撃したとする声明を出しました。
————————-
11月8日、
ミサイル発射についてアメリカのホワイトハウスは、
「イランが反体制派に弾道ミサイルなどの武器を提供し、
サウジアラビアへの攻撃を支援している」として、
ミサイル攻撃の背後にイランがいるとの見方を示し、強く非難しました。
————————-
11月9日、
サウジアラビアは自国民に対しレバノンへの渡航自粛を勧告し、
すでに入国している場合はできるだけ早期に出国するよう呼び掛けました。
サウジアラビアとイランの緊張激化で、レバノンは微妙な立場に立たされています。
レバノンのハリリ首相は先週、滞在先のリヤドで突然辞任を表明し、
イスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラを通じ、
イランがレバノンの内政に介入していると非難しています。
————————-
11月6日、
日米は、新興国が進めるエネルギー関連のインフラ開発で、
民間企業の受注が拡大できるよう協力することを盛り込んだ覚書を交わしました。
覚書では、日米が民間企業の受注を後押しするために、
アジアなどの新興国のインフラ開発についての情報を共有することや、
貿易保険や輸出入銀行など政府系機関が協力するといった内容になっています。
————————-

これらの流れは、2014年の原油の暴落が起点になっているように見えます。
2015年10月、
IMFは、2020年にサウジアラビアが財政破たんする可能性を示唆しました。
サウジの歳入のほとんどは原油輸出によるものです。
以前にも書いている通り、現状での歳出をまかなうためには、
100ドル程度の原油価格が必要だと言われています。
その原油が2014年6月以降、一気に100ドル前後から下落して、
半値以下まで下げてしまいました。
4月23日のメルマガでは、
サウジアラビアの財政が圧迫されている理由について、
人口増加による社会保障費の負担増が原因だと書きました。
社会保障費の負担だけであれば、
原油価格次第でなんとかなると考えたくなるところですが、
それだけではありません。
サウジアラビアは、1人当たりのGDPが
(IEA、2015年発表の時点で)韓国よりも低く、
1人当たりの1次エネルギーの消費量が米国やカナダと同等に高い国です。
エネルギー効率の非常に悪い国なのです。
人口増、エネルギー効率の悪い状況を継続してゆくと、
このままでは、2038年頃に石油輸入国に転落すると言われています。

サウジアラビアは、
いずれ原油依存から脱却しなければいけない状況にありましたが、
2014年の原油価格の暴落が行動を急がせたと言えます。

そう言う状況の中で、サルマン国王とムハマンド・ビン・サルマン皇太子が
リーダーになって推進した政策が「ビジョン2030」です。
ピジョン2030は、
4年先の2020年には歳入において原油に依存しない財政体制をつくりあげること、
2030年に国内で工業、鉱業、観光業などを発展させて
若者の雇用を増やすことを目標とした政策です。
経済改革によってGDPを2倍に増やし、
2030年までに600万の新しい雇用を生むとしています。
このプランを推進するには、4兆ドル(460兆円)の投資が必要とされています。
工業の発展という枠組の中で、
国内での軍需産業を育てるという目標もかかげています。

ムハマンド・ビン・サルマン皇太子が財政の立て直しを図る一環として、
エリート層の粛清が行われています。
サウジアラビア政府は、11月9日、
約11兆3000億円に上る横領と汚職について聴取するため、
201人を拘束したと発表しています。
その中で、マンスール・ビン・ムクリン王子の事故だったため、
さまざまな憶測が飛び交っているわけです。

今年5月、トランプ大統領のサウジ訪問時には、
数百億ドル規模の商談を複数締結したとされています。
この中には、サウジへの約12兆円に及ぶ武器の売却も含まれています。

今年5月、イランの大統領選では、
2015年の核合意を主導、対外融和路線を維持、
外資誘致による経済再建に取り組むとした穏健派のロウハニ師が再選しています。
緊張していたサウジアラビアとの関係も、
9月には相互訪問へという見出しのニュースが出ていました。
それにもかかわらず、サウジアラビア、イランの関係は急激に悪化し、
前週の一連のニュースに至っています。

「サウジアラビアの財政危機」
→「サウジアラビアの内政の混乱」
→「強硬で独断的な指導者の台頭」
→「対外的な不安の拡大」
→「産油国の緊張による原油価格上昇」
→「日米でアジアへのシェールオイル輸出促進のインフラ整備の準備を整える約束」
という経緯を見てゆくと、
結果として、現状へ誘導されているのではないかと疑いたくなります。

このメルマガでは、原油価格がシェールオイルを含めた新たなレンジを模索していて、
新たなレンジがだいたい50~70ドルを基準(たまに30ドルまで振れることもある)
になる可能性があると書いてきました。
本年は、すんなりと上昇できませんでした。
しかし、来年は、中東情勢の混乱と、
アジアへ向けて積極的に米国がシェールオイルを輸出する仕組みづくりが整ったため、
いよいよレンジ上限が見えてくる展開になるのではないかと考えられます。

NY原油期近の11月は、下げ傾向の強い時期です。
そのため、目先の価格がすんなりと上昇を継続できないかもしれません。
しかし、11月から12月にかけて押し目をつける展開になるなら、
12月以降の上昇は、来年の前半へ向けた、値幅と日柄の大きな動きになって、
70ドル以上をつける展開になると考えられます。

そのような展開になるなら、11月は、NY原油期近の価格が下げても、
55ドル程度で下値を支えられる公算です。